ストレッチが効かない
前回の説明にも用いた、このストレッチ技。膝関節を伸ばすこともできるが、アキレス腱を伸ばすのに用いられる。
しかし、このストレッチが全然気持ちよくないという人がいる。ヨガのインストラクターのような体が非常に柔らかい人である。
こういう人を相手にする場合、気持ちの良くないことをする必要はない。いくらヨガのインストラクターといっても全身ふにゃふにゃということはないので行うべきことは必ず見つかるだろう。
ところで、この人はなぜアキレス腱のストレッチが効かなかったのか?それを理解するには、関節における圧迫と伸張の概念を理解する必要がある。
関節がそれ以上伸びない(伸展しない)理由は人によって「筋肉の伸張」か「骨の圧迫」のどちらかである。体が硬い人は、筋肉が固まっていてそれ以上伸びないから関節が広がらない(例えば股関節、力士やバレリーナは180°開脚ができるが、一般人は無理だ)。なぜ関節が広がらないかと言うと、筋肉が固まっていて伸びないからだ。「筋肉の伸張」が足りないために関節の可動域が限定される。そういう人には関節を広げて伸びない筋肉をストレッチしてあげることは有効だ。固まっている筋肉が伸びると気持ち良さも感じられるだろう。
では、体が柔らかい人は関節はどこまででも伸展するかと言えばそうではない。例えば肘。猿腕の人であっても伸びる角度は200°くらいが限界、それ以上は曲がらない。関節の構造上、骨と骨がぶつかってそれ以上開かないからだ。これが「骨の圧迫」である。肘関節は誰でも骨の圧迫点まで行くが、人によっては足首のアキレス腱も骨の圧迫のところまで伸びる人がいる。それがアキレス腱のストレッチが気持ちよくない人だ。
骨の圧迫のためストレッチできない場合は素直に諦めることだ。それ以上力を入れても、骨と骨がぶつかって痛いだけだ(関節損傷の危険が出てくる)。そもそも既に弛緩している筋肉をストレッチしようとしていることがナンセンスだ。
解剖学的に骨、関節、筋肉を理解することは、個人差を理解することでもある。人によって気持ちがいいことは異なる。型や手順に拘って気持ちが良くないことをがむしゃらに行うことは間違いだ。その人が気持ちがいいことを見つけてあげるためにも解剖学は道しるべになる