資格、修了証について

日本には、タイマッサージの国家資格はありません。タイではタイ厚生省が2008年に国家資格取得コースを開始しました。基本的にタイ人のみが受けられるコースで、文部省認定の限られたスクールで、厚生省認定の限られた教師に付いて2年間タイ伝統医療とマッサージを学ぶことで資格が得られます。そろそろ第一期卒業生が出てくる頃ですが、現時点でタイの治療院やサロンでこの資格を持って働いている人はいません(だって、今までなかったのですから)。今後も全体からすれば極めて限られた方のみが取得する資格になると思われます。
日本での手技療法の国家資格は鍼灸按摩マッサージ、柔道整復師、そして通常の医師免許のみです
整体も、カイロプラクティスも、リフレクソリジーも、クイックマッサージもアロマオイルマッサージも、エステのリンパマッサージもタイマッサージも法的には無資格営業という点では同じです。
リラクゼーションや美容目的で行う場合はそもそも資格が不要だからです。

このため、スクールが発行する修了証または認定証には法的な意味はありませんし、そもそもスクールによってそのレベルもまちまちです。スクールによってという言い方は正確ではないかもしれません。同じスクールでも教える先生によって、そして、受講する生徒のセンスや意欲によって卒業レベルは全く違ったものになります。

このため、サロンやスパに就職する際には、修了証はそれほど重視されません。見られるのはどんな施術ができるかです。テストが行われて、お店の方針やノウハウに従った技術指導が行われるはずです。その結果、お店が望むような施術ができたら採用されるし、できなければ、あるいは他にもっと上手な人がいれば採用されないだけです。

その意味で、多少受講料が高くても、サロン併設のスクールに通えば、就職の率は少しは高まるかもしれません。この場合は修了証は一定の意味を持ちますが、必ず採用してくれる訳ではないので注意が必要です。

タイのスクールの修了証も効力という意味では日本のスクールと変わらないでしょう。タイ文部省認定校とか、ワットポーの修了証とか、権威を謳っている学校もよく見かけますが、余り意味がないような気がします。なぜなら、認定校でないワンディ先生やピシェット師のようなプライベートスクールの先生も元々はオールドメディソンのような認定校出身である場合が多く、タイマッサージは結局人から習うことを考えれば、学校がどうこうよりも先生がいいか悪いかの方が重要だからです。そもそも認定校というのは、設備など一定の条件を満たし、省庁に顔が利く伝統医療ドクターが(名前だけでも)関わっていれば取得できるものですし、その伝統医療ドクターが先生を勤めるとは限らないので余り意味がないのです。また、同じ学校を出た生徒のレベルも本人のモティベーションによって劇的に異なるため、雇用する側も修了証の権威など全く気にしていないと言えるでしょう。

タイで習うか日本で習うか

タイで習うのと日本で習うのとはどちらも一長一短です。
タイで習うメリットは、まず、料金が安いこと、そして、本場のタイの先生から習ったという満足感が得られることです。タイに滞在することの楽しさ、タイの人との交流、そういった旅行的な付加価値もメリットと言えるでしょう。
欠点は、余程長期滞在するのでなければ、短期集中で詰め込むために細かいことが不正確になりがちなこと、そして、日本に帰ってきてしまうと、それを再確認するためにもう一度学校に行くことが困難なことでしょう。このため、タイで習った人は技術を維持するため、あるいは高めていくために何度もタイに行く必要があります。

言葉の問題もあるとお考えの方は多いのですが、英語がそこそこできればどの学校でも問題はありません。英語が出来なくても、今は日本語対応の学校もたくさんあります。

日本で学ぶメリットは、先生が身近にいるために技術の維持や練習環境の確保が容易なこと、そして、何より、タイに行くまとまった休暇が取れない人でも土日や空いた時間を使ってマイペースで学べることです。
タイで学ぶように1日6時間で5日連続だったりすると、疲れるし飽きるし覚えられないし、となりますが、例えば毎週土曜日に6時間といったペースで学べば、家で家族に練習したり、一つ一つの施術の意味を考える時間、覚える時間が十分にあって余裕を持って学習を進めることが出来ます。

日本で学ぶもう一つのメリットは先生が優秀なことです。意外かもしれませんが、タイの学校のタイ人の先生よりも日本人の先生の方がしっかり学べると思います。日本人は几帳面なので、指圧ポイントも極めて正確に習得しますし、解剖学的な意味、漢方のツボとの関係など、関連する知識を自分が納得するまでしっかり勉強する傾向があります。一方、タイ人はお国柄で、細かいことはマイペンライ(気にしない)。ワットポースクールの先生であっても、センやポイントが間違っているということが多々あります。学校教育も日本ほどしっかりしていないため解剖学的な知識も支離滅裂なことが多く(もちろん外国語での伝達力の問題もあります)、筋道立てて物事を説明するのが苦手なような気がします。もちろん個人差がありますのでタイの人全員がそうだとはいいませんが、先生もセラピストも求道者のように一生かけて道を極めようとする日本人の勤勉さは特筆すべきことと言えるでしょう。

結論としては、まとまった休みが取れて、短期集中で学ぶのであればタイで、そうではなく、仕事を続けながら、あるいはゆっくりマイペースで学びたいなら日本の学校がいいと思います。

スクールのタイプ

タイマッサージスクールにはいくつかのタイプがあります。

1)オールドメディソホスピタルタイプ
カリキュラムが一週間30時間と決まっており、生徒は月曜日の朝から一斉に受講をスタートします。金曜日まで毎日9:00-16:00にレッスンを行い、テストをして、全員同時に卒業します。小学校のように皆で同時進行で学ぶので一体感が生まれ、国際的な友達がたくさんできるメリットがあります。このタイプの学校は受講料も安いです。デメリットは、先生一人が10人くらいは見るため、全員の施術を確認しきれないこと、生徒同士で練習してもできているのかどうかよくわからないことです。バンコクのプッサパー、チェンマイのITMもこのタイプです。

2)ワットポーTTMスクールタイプ
先生一人が生徒2~6人程度を担当してレッスンを進めます。スタート曜日が決まっているわけではなく、好きな日から始めることができ、同じ日にスタートする人でいくつかのグループが作られ、それぞれのグループを一人の先生が毎日見ます。何日か休んだり、午後だけ来たりといった融通も利くので、短期の休みしか取れない日本人には有り難いシステムです。欠点は、先生はたくさんいますが、一人一人が著名な先生というわけではなく、技術や教え方において当たりはずれがあることです。また、自分のグループ内の人としか話さない、練習しないことが多いため、交友関係が広がらないということもあります。先生が複数いる中規模のスクールはだいたいこのタイプです。

3)プライベートスクールタイプ
先生が一人でスクールを行っているタイプです。ピシット、ワンディ、ママニットなど、先生のレベルが非常に高いのが特徴です。今はご子息のジャック先生がメインで先生を担当するレックチャイヤもこのタイプだと言っていいでしょう。著名な先生に高い技術を直接教わることができますし、スタート日やスケジュールを柔軟に決めてもらえるので私としては一番お勧めのタイプです。ただし、特に10月~2月のハイシーズンには多くの受講生が世界中からやってくるため生徒数が多すぎて、先生に直接見てもらう時間が極端に少なくなることがあります。満員で断られることはまずありませんが、逆にそれが欠点になりうるということです。

4)日本語対応のスクール
タイにあるスクールのいくつかは日本人がオーナーです。ワットポースクンビット校、プッサパー、コラン、チェンマイクラシックアート等々。こういうスクールはWEBサイトや申し込みも日本語でできて、レッスンは日本語通訳がついて行われるので安心です。欠点は、値段が若干高いこと、知り合うのが日本人ばかりで(それはそれでメリットとも言えますが)タイ人や諸外国の人との交流を楽しめないところでしょうか。

5)全寮制のスクール
最近人気が出ているCLSマッサージスクール、TTCスパスクール等は宿泊設備完備で、パックで申し込めば食事も宿泊も心配がありません。料金も良心的です。寮といっても、ホテルスパのような美しい建物なのでまるでリゾートに滞在しているような気分で安心安全にタイマッサージを学べるのは魅力です。欠点は、タイマッサージに関しては、やはり一人一人の先生がプライベートスクールの著名な先生のような高い専門性を備えているわけではないこと、そして、施設が郊外にあるためアフタースクールに街で遊んだり飲食をするのに不便なことです。

6)日本のスクール
日本にはタイマッサージの大きな学校はないので、2か3のタイプになります。タイの学校にない特徴は、仕事をしながら通えるように、土日コースとか、夜コースが設けられていることです。完全フリータイムのスクールも多いです。日本人の先生は、勉強熱心な人が多く、単純に日本語で教えてくれるというだけでなく、タイマッサージのひとつひとつの手技の意味を、解剖学の視点から解釈し直し、理論的に解説してくれるはずです。タイで何年もかけて苦労して学び、解剖学を学んで初めて理解できることを、短期間でわかりやすく教えてもらえるのは料金以上の価値があります。ただし、そこまで教えてくれるかどうかは学校によります。

タイマッサージスクールの流派

タイマッサージを習おうと色々調べてみると、タイマッサージは一種類ではないことに気がつきます。チェンマイスタイル、ワットポースタイルだけでなく、色々な人が色々なことを教えているのです。これがタイマッサージの流派です。
学校を選ぶにあたり、まずは流派について理解することが重要です。

例えば、ワットポースタイルとチェンマイスタイルでは、指の運び方と体重のかけ方が異なります。そして、ストレッチなどの手技は同じものもあれば違うものもあります。体を流れるエネルギーラインの思想や指圧ポイントは同じなのですが、テクニックが異なります。

タイマッサージの技術を深めるために、最初に習った学校の基礎の30時間では物足りず、もっと学びたいと思ったとき、他の流派の学校に行きたいと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それはお勧めできません。私もそうでしたが、例えばワットポースタイルを習った後にチェンマイスタイルを習っても、重複する内容が多くて意味がないだけでなく、それを自力で整理することもできないため、二つ目に習った流派のテクニックはすぐに忘れてしまうのです。つまり、流派の違いというのは、同じ効果を生む施術を異なる手技で行っているに過ぎないのです。

同じ100時間を学ぶなら、一つの流派で徹底的に習う方が効率がいいです。一つの学校で基礎、中級、上級と習っていけば、カリキュラムが重複していることはありえないので無駄なく、漏れなく技術を身につけることができます。その後、他の流派を見れば、「チェンマイスタイルでは、私がいつもこうやることを、こんなやり方でやるんだ」と比較することができ、同じ筋肉に対する異なるアプローチの仕方として施術の理解を深めることができます。さらに、一つの流派を体系的に理解していれば、他の流派の異なるアプローチが自分の流派と比べて安全性や施術者の疲れの点で優れているかどうかを判断することもでき、より優れた方法であれば、自分の施術に取り入れることもできます。

そう考えると、最初に基礎コースを受ける学校をどこにするか、これが重要です。その流派でこれからやっていくと決意したのに、そこに自分が学びたいものが含まれていなかったり、後になって他の流派を見た時に、どの手技も自分の流派より優れていたら、その流派で初めから学びなおそうと思うことになりかねません。

学校選びの基準としては、料金や場所ということもありますが、自分は色々な症状の軽減をしたいのか、将来的に先生になりたいのか、そんなことも考えながら、その学校の上級コースで提供されている内容を確認することも大事です

※タイ古式マッサージ、タイ式マッサージと言われることが多いタイマッサージですが、タイ厚生省は近年名称を「タイマッサージ(Thai Massage)」に統一しました。当サイトではその通達に従い、すべての表記をタイマッサージとしています。