治療マッサージの世界(1)

タイマッサージについて勉強熱心な人ほど、解剖学や症状軽減に興味を持ち、そして、例えば鍼灸按摩マッサージ国家資格保有者に比較して自分の治療能力の低さにコンプレックスを持つ傾向がある。そして、鍼灸や整体を学び、治療できるようになりたいと考える。スクールで習ったシーケンスを順番通りに行うリラクゼーションマッサージは格下のものだと考える。

そういう趣向、能力を伸ばす方向性を否定するつもりはないが、いくつか間違った認識が含まれているような気がする。まず、考えなければいけないことは、リラクゼーションマッサージと治療マッサージは、目的も方法論も全く異なるものだということである。「タイマッサージ」を一つの手技体系だと考えてしまうと、症状軽減を行っている施術者を見て劣等感を感じたり、自分がやっていることの意味についてわからなくなってしまうことある。今まで学んできたことは何だったのか、これから学ばなければいけないことは何なのか?

タイマッサージスクールで最初に習う基礎コースのシーケンスは通常、リラクゼーションマッサージである。以前、「いいマッサージとは」という連載で極めるべき技術について述べたがそれも基本的にはリラクゼーションマッサージについてである。リラクゼーションマッサージの目的はその名の通り、体と心を「リラックスさせる」ことにある。痛くない、気持ちのいいタイマッサージを全身のセン、筋肉に施すことにより、筋肉を緩め、血行を促進し、副交感神経を優位にする。その結果、活性化していたトリガーポイントは消滅はしないまでも活動は収まり、自然治癒力の回復により体の状態は快方に向かう。通常はこれでよい。この技術を極めるだけでも価値はあるし、極めることはそれほど簡単ではない。また、法的にも、お客様のニーズ的にもこの範囲から逸脱することはタイマッサージに求められていることではないように思う。

治療マッサージの目的は、腰痛や膝痛などの特定の痛みを軽減することである。方法論はリラクゼーションマッサージとは異なり、痛みの原因になっているトリガーポイントを探して除去する、あるいは、痛みの原因になっている特定の筋肉をストレッチ等のテクニックで的確に弛緩させる。熟練者が行えば15分程度で終わり、やり方によっては強烈な痛みを伴うこともある。このため、施術後の感想は「気持ちよかった?、寝ちゃった:-)」ではなく、汗をかきながら「すごかったなあ、痛かったなあ 😥 」になる。もちろんそれはテクニック次第なので、痛くない程度に長時間行えば気持ちのいい範囲内でトリガーポイントを除去することはできる。しかしとにかく、痛みの原因を類推し、見つけ、取り除くというプロセスは、定型のシーケンスをこなすリラクゼーションマッサージとは全く異なるものである。

タイでは、日本のように治療は鍼灸按摩マッサージや整骨院、整体、カイロ、リラクゼーションはスパ、タイマッサージ、バリマッサージといった市場の住み分けがなく、どちらも「タイマッサージ」というジャンルが担う。このため、タイマッサージの有名な先生が治療マッサージを行うことは珍しいことではない。逆に言えば、治療マッサージをできる先生が有名な先生となる。

このような、市場セグメント、顧客ニーズの日タイの違いを考えれば特に治療マッサージに拘る必要はないと思うが、治療マッサージについて知っていることはマイナスにはならない。治療マッサージについて、何回かに分けて書いてみようと思う。

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