強さと回数

ピシット先生がバンコクで患者さんを治療する時間は通常15分である。患者の状態を見て、聞いて、触診した後に、強烈な指圧、またはエルボー圧をドーンドーンと入れ、そして、強烈なストレッチをいくつか行う。そして、その効果を確かめながら、別の、あるいはより強い指圧またはストレッチを行う。数分で終わってしまうこともある。その間、患者さんは気の毒なほどに痛がり、涙目になる。ロイヤルマッサージを代表とするバンコク系の治療マッサージは概ね、こんな感じだ。
一方、チェンマイのマッサージマスターたちは長時間かける人が多い。ピシット先生が15分で終わらせてしまうことを、2時間かけて行う。指圧やセン弾きを繰り返し繰り返し行い、関節の可動域の変化を確認しながら、また、繰り返し繰り返し行う。関節をぐるぐる回したり、曲げ伸ばしして筋肉を動かすことも多い。いわゆるストレッチというよりは、筋肉を動かしてリラックスさせている感じに近い。その間、ほとんどの患者さんは寝てしまう。それほど気持ちよく、痛くても眠りを妨げるほどではない。

この違いをどう考えたら良いのだろうか。どちらが正しいのだろうか。
私は、強さと回数の違いだと考えている。ひとつのトリガーポイントを、あるいは凝った筋肉を弛緩させるためには一定の力が必要だが、それを一気に強烈に与えるか、小さい力を繰り返し与えるか二つの方法がありうる。前者は強烈ゆえに痛みを伴うが、時間は短時間で済む。後者は、痛みがない代わりに時間がかかる。トリガーポイントの消失は、与える力の積分値で決まるので、どちらの方法でも、力が一定量に達したら同じようにトリガーポイントは消失する。つまり、どちらの方法も正しい。

なぜ地方によってこのような違いがあるのかは謎だが、北方系(フォークマッサージ)は、医学的な知識や解剖学の正規の教育を受けていない田舎の人たちが、より安全サイドで施術を行ってきたために痛みを伴わない強度が一般的になったのかもしれない。バンコク系は多様な学者や医者によって解剖学的な裏づけがあるので、安全性を十分に考慮した上で強烈な手技(=効果の高い手技)を行うようになったのか、あるいは、東京でクイックマッサージが流行っているように、バンコクは忙しい人が多い都会なので、短時間で済むことが好まれるのかも知れない。

いずれにせよ、施術方法の選択肢が複数あるのはいいことである。今回は強さと回数の違いについて述べたが、それ以外にも色々なことがスタイルによって異なる。異なっていても、同様の結果を生むことが多い。色々なスタイルがあると、どのスタイルを選ぶかは、患者さんの好みでも選べるし、施術者は患者さんの状態に応じてどのスタイルでアプローチすべきかを考えることができる。国家資格化や標準化は必要なことだが、ひとつのやり方に統一する必要はない。世界の言語が多様であることが文化の多様性の保存に繋がっているように、タイマッサージの多様性も末永く継承されていくことを願っている

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