治療マッサージの世界(2)

バンコクのワットポーTTMスクールには治療マッサージ(セラピーマッサージ)のコースがある。以前は5日間のコースだったが今は10日間になっている。教科書には頭痛、肩凝り、腰痛等の症状別に、指圧すべきポイントが人体の絵に記されている。非常に大雑把な絵で、そのポイントが実際の体のどの筋肉のどの部分に対応するのかは先生に教えてもらわないとわからない。

いや、教えてもらってもよくわからない。5日間に渡り、教科書を元に、そのポイントを教わり、そこを強く指圧することを学ぶ。つまり、そのレッスンは症状別に押すべきポイントを覚えることで完了する。

私は熱心に学んだつもりだったが、結局よくわからず、身につかなかった。ポイントが何だったのか、それはツボだったのか、なぜそのポイントを押すと症状が改善するのか、さっぱりわからなかった。わからないことは身につかない。10年ほど前のことだ。

今となっては、そのレッスンの意味がわかる。ワットポーの教科書はタイ厚生省の教科書のイラストと同じである。そして、そのポイントのイラストはトリガーポイントセラピーの本のポイントと驚くほど一致する。

治療マッサージとはトリガーポイントの除去である。ツボ刺激や電気治療といった痛みを緩和する方法論もあるが、痛みの根本的治療法としてトリガーポイント理論が世界的に主流になっている、施術者同士の共通言語になってきていると感じる。

ワットポーの治療マッサージはトリガーポイント理論そのものだったのだ。レッスン中になぜ理解できなかったかというと、当時の私に解剖学的な知識がなかったこと、そして、練習相手の体が健康体でトリガーポイントを指で感じることができなかったこと、そして、一番重要なことだが、先生が、このポイントはトリガーポイントであり、それを指で感じることを教えてくれなかったことにある。

ワットポーの治療マッサージを身につけようと思ったら、まず解剖学の勉強をしなければならない。そして、筋肉の硬直やトリガーポイントが骨格や動きの歪みにどう影響するのかを学び、患者からどこに痛みが発生するかよく聞き、体の状態を視診し、どの筋肉に問題があるかを類推し、実際にその筋肉を触診してトリガーポイントを探し、それを的確に消滅させなければならない。トリガーポイントの治療は、垂直指圧だけでなく、クロスファイバーストローク(ジャップセン、キアセン)やダイレクトストレッチ(オイルをつけた皮膚の上で圧をかけながら指を滑らせる)を併用する。トリガーポイントの周囲の筋繊維は柔軟性を失っているので、筋繊維を傷つけないよう注意しながら慎重にゆっくり行う。局部的な指圧は筋繊維を傷つけやすいので、肘や膝を使った方がいい場合も多い。

ワットポーで教えてくれたことは、この一連のプロセスの中の、「症状別にトリガーポイントができやすい場所」だけであった。身につくわけがない。

治療マッサージを身につけようと思ったら、まず解剖学の勉強をすること、そして多くの体に接する経験を積むこと、そして、正しいテクニックを教えてくれる先生について、マンツーマンで学ぶことである。症状別に一連のシーケンスを定めていて、それを行えば症状が軽減するということを教えるスクールもあり、それはそれで有効なのだが、治療の確率を上げるためには、まずトリガーポイントの所在を指先で感じ、凝った筋肉が骨格をどう歪ませているか、あるいはトリガーポイントがどこに痛みを発生させているか、こういったことをイメージできる知識を持っていた方がいい

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