いいマッサージとは(3) – 繊細なタッチとは

マッサージとは筋肉を弛緩させることであることは前回述べた。

筋肉を弛緩させるためには、まず、筋肉の凝った部分を見つけなければならない。凝っていない部分をマッサージすることは無駄だし、気持ち良くもない。

タイマッサージの場合、「凝った部分を見つける」というプロセスを行わずに、習った手順どおりに施術をしている方も多数いらっしゃるだろう。それはそれで問題がない。なぜなら、タイマッサージというのはうまく設計されていて、ほとんどの人が凝っているであろう部分を押していくように構成されているからである。

センとか、経絡とか、ツボというのは、対象が神経であったり、血管であったり、あるいはよくわからないものであることもあるのだが、「凝りが出来やすい筋肉のポイント、あるいはライン」であることが多い。数千年の経験則で、個人差は少しあるが、どの人も同じようなところに凝りが出来ることを発見し、それを地図のように表現し、指圧ポイントの道しるべにしたものである。

だから、何も考えずに地図通りに押していても一定の効果は得られるし、それで十分なことも多いのだが、それでは名人とは言えない。名人というのは、そういうベーシックな知識の元、触診という技を使って、より正確に凝りの場所を見つけ、凝っているところを重点的に攻める。だから時間の無駄が少なく、押されているときは常にいいところを押していてとても気持ちがいい、そして、終わった後は驚くほど体が軽くなるということになる。与えられている時間が限られている以上、凝っているところを見つけられる人の方が効率的に体を解すことが出来ることは否めない。

この、凝っているところを指で感じる、ということが簡単なようで難しい。熟練者は、皮膚の上をスーと指を滑らせて、あるいは指を揺らすように当てて、「ここにトリガーポイントがある」とか「ここは硬い」とか言う。初心者がそこを触ってもよくわからない。わからないから聞くと、「繊細なタッチで触ればわかる」と言われる。しかし、「繊細なタッチ」とは何なのかよくわからないから、やはりわからない。強く押してみる。わからない。弱く押してみる。わからない。強すぎず弱すぎず、がいいらしい。

なぜそうなのか、を説明する。例えとして血圧計を持ち出す。最高血圧、最低血圧という数字があるのは誰でも知っているが、それがどういう値なのか知っているだろうか? 血圧を測るときに、腕に巻いた聴診器(マイク)に圧力を加えて締め付けていくが、その締め付けが緩すぎると脈動の音は聞こえない。圧が上がっていくと聞こえ出す。そこが最低血圧だ。圧を更に上げていくと脈拍が止まって聞こえなくなる。そこが最高血圧である。

実は、筋肉の触診も同じような原理である。下の図を見てほしい。皮膚の下に脂肪層があり、その下に筋肉がある。筋肉にトリガーポイントというコリが出来ていると、筋肉は一部分盛り上がって硬くなっている。押す強さ1と2の間の強さで指を滑らせても上滑りで何も感じない。2と3の間の強さで滑らせると、コリのところで指が引っかかるが、コリがない部分では引っかからない。3以上の強さだと、常に引っかかっている。

つまり、図で示す、2と3の間の強さで皮膚を押さなければ凝りは見つけられないのだ。これが、繊細なタッチの正体だ。理屈がわかれば実践することは可能だろう。指で押していって、脂肪層を突き抜けて筋肉を指先で感じたらそこが3である。そこから僅かに力を緩めて、皮膚の上で指を滑らせればトリガーポイントの所在がわかる。わかれば、そこを押して、痛みがあるかどうかを相手に聞いてみる。あれば正解だ。そういうことを繰り返しているうちに、相手に聞かなくてもここを押したら痛いだろうな、とわかるようになる。

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