自分の体に楽なタイマッサージ

最近のチェンマイや東京のタイマッサージコミュニティを席巻しているキーワードが、

「自分の体への負担が少ないやり方」

である。ワットポーやオールドメディソンホスピタルで習うような一般的なタイマッサージを長年続けていると必ず体を壊す。だからそんなやり方はすべて白紙に戻し、体の負担が少ないやり方、自分も一緒に健康になるやり方を身に付けなさい。

そういう話である。実際に行う手技は、足で踏んだり、相手の体の上に座ったりすることが多い。そして自分の姿勢、そして脱力方法をトレーニングする。

いい話だ。人気が出るのも当然だろう。しかし、ピシット先生の口から「自分の体に楽」というキーワードを聞いたことがない。それどころか、「そのやり方は楽にやっているように(怠けているように)見えるからだめだ」と、むしろ不快感を持っているかのようだ。

ピシット先生の頭の中では、相手に対してどれだけ効果を上げるかが第一優先課題だ。施術の際に自分の体のことなど考えない。自分の体調管理は毎朝のジョギング、ルーシーダットンで完璧だ。酒も煙草もしないし、肉も食べない。そして、ピシット先生は長年タイマッサージを続けているにもかかわらず、76歳にして現役であり、健康そのものだ。

要するにプロ意識である。例えばスポーツ選手や、会社員が、自分が楽に行えるということを第一優先に仕事をするだろうか。通常そんなことは考えない。試合のとき、商談のとき、最高の結果を出すことだけを考える。そこでは楽をしていると見えるだけでマイナスだ。「自分の体が硬くてうまくできない」から「楽なやり方で行う」ではなく「できるように自分の体を柔らかくする」のがプロだ。

自分の体調管理は仕事とは別の話である。自分の時間にしっかりトレーニングをして、規則正しい生活を行えばいい。ピシット先生のタイマッサージにもそういう考え方が貫かれている。

それは、王宮系のマッサージの考え方でもある。王様にタイマッサージを行うのに楽をするなどもっての他、足を使うのも失礼。指を壊すから踏むのではなく、壊さないように指を、そして体を鍛える。高いお金を払ってタイマッサージを受けに来る顧客に対しても同様の態度で接するのが当然だという仕事への誇りがある。

そもそも、通常のタイマッサージをすると体を壊すというのは幻想である。タイマッサージだから体を壊すのではない。悪い姿勢、そしてトレーニング不足だから体を壊すのだ。一人のタイマッサージ師が大きなスクールを解雇され、一人でスクールを始めるにあたって大スクールや病院、大学の権威に負けない、それより優れていることを示す何かが必要だっただろう。私は、「自分の体に楽なタイマッサージ」というのは、そういう背景から生まれたトレンドだと理解している。

顧客に接するときに考えるべきことは、タイマッサージの効果だけでなく、(不快感を与えないための)礼儀、(真剣に取り組んでいることを示す)見栄えという要素もある。そういうことをクリアした上で自分の体に負担が少ないやり方を行うならそれは正しいことだが、第一優先にすることではないと私も思う

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