いいマッサージとは(5) – 美しい音色

マッサージ、そして指圧の目的は筋肉を弛緩させることだから、凝った筋肉やトリガーポイントを解せば目的は達成される。解すためには、押したり、摩ったり、揉んだりと色々なやり方があり、そんなことをしているうちに徐々に解れていくものなのだが、とにかくいじればいいというものではない。凝りを解すための力が皮膚の下の毛細血管を傷つけて青あざを作ったり(これは皮下脂肪の厚い人に強い指圧をする場合は避けられないこともある)、筋繊維を傷つけて、コリをより悪化させてしまうこともある。いわゆる揉み返しだ。

そして何より、下手な指圧はされている人に不要な苦痛や不快感を引き起こす。人間の触覚は、身体にとって悪である刺激を排除しようとするからだ。その感度と刺激の識別能力は非常に高いので、施術をしている人の心の状態までも感じ取ってしまう。

基本を知らず、そして練習をしていない人の指圧は通常、ひどいものである。ノイズだらけで、不快この上ない。なぜかというと、人の筋力というのはトレーニングをしなければ、不安定で不正確なものだからだ。(余談になるが、これは逆に言えばトレーニングによって多種多様な目的に対して正確な身体運動をすることができるようになるということで、下等動物のように一つの目的のために正確な能力が固定されていないことこそが、人間に無限の可能性を保証している。)
不正確な例えとして、例えばゴルフ。ボールを真っ直ぐ飛ばせばいいのだが、初心者はボールにクラブを当てることすら出来ない。手首をしっかりと固定し、腕を真っ直ぐにして腕力を封印し、肩をリラックスさせて、丹田に重心をしっかり意識し、背筋を真っ直ぐに伸ばして回転軸として、腰から回転を誘導するということを行って初めて正確なショットを打つことができる。

タイマッサージの垂直指圧もターゲットに正確に指をセットし、手首を固定して腕を真っ直ぐにして背筋を伸ばして、息を吐きながら腰を持ち上げて丹田を寄せていくことでスムーズかつ力強い圧を真っ直ぐに落としていくことができる。さすがにゴルフほどは難しくないが、基本は同じだ。

この基本を守らずに、握力や腕力に頼って指圧を行うと、圧力の上がり方が不連続になり、ノイジーになり、方向が定まらず、ターゲットに対して美しい圧は入らず、周囲の筋繊維を傷つけることになる。人体はこのような身体に有害な刺激を不快感としてキャッチするので、されている人は逃げたくなる。

一方、上手な圧は、人体が求め、必要とする刺激なので心地よい。痛みは伴うが、いい痛みに対しては脳が脳内に快感物質を放出するため痛みは相殺され、痛いのに気持ちがいいという状態になる。この状態を作れるかどうかは、指圧が神経に響かせる音色の純度に依存する。

美しい音色が正しいフォームとそれを正確に行うトレーニングによって生み出されるのはこういう理由なのだが、例外はある。
タイでタイマッサージの先生をしているような人でも猫背で腰が後ろに引けた状態で指圧を行う人がいる。あるいは手首を固定せずに、手首を回して指圧する人がいる。ところが、その人の指圧は極めて安定していてこの上なく気持ちがいい。結果がよければ、そのやり方は間違っていると否定し去ることはできないので、そういうやり方もあると認めざるを得ない。これは、スポーツで言えば、野茂のような個性的なフォームというべきものであろう。人それぞれ癖や骨格が違うので、その人に合ったやり方を無理に矯正すべきではない。しかしながら、野茂のフォームは外面的には個性的だが、ピッチングの本質的な基本はクリアしているはずだ。

悪い姿勢でのタイマッサージは、施術者の故障の原因になりうるし、本当に強い指圧を入れることができない。一般的にはやはり正しい姿勢とテクニックを学ぶべきであろう

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